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岡山地方裁判所 平成4年(ワ)370号 判決 1993年8月27日

原告

土井幹彦

被告

三宅匠

主文

被告は、原告に対し、金三九四万三一三〇円及び内金三五四万三一三〇円に対する平成元年六月二四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用はこれを三分し、その一を被告の負担とし、その余を原告の負担とする。

この判決第一項は仮に執行することができる。

事実

第一申立

一  原告

被告は、原告に対し、金一一八六万四七一六円及び内金一〇八六万四七一六円に対する平成元年六月二四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告の負担とする。

仮執行宣言

二  被告

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

第二主張

一  請求原因

1  事故の発生

日時 平成元年六月二四日午前三時一五分頃

場所 岡山市目黒一二番地の一先県道

加害車両 普通乗用自動車(岡五七に八八〇〇)

加害者 被告

被害車両 普通乗用自動車(岡山五九た三二八六)

被害車 原告

態様 原告が被害車両を運転中自損事故を起こして車道上に立ち往生し、原告が車外に出て、車道上で後続車両に右事故を知らせるため、両手を振つて合図をしていたところ、被告運転の加害車両が原告に衝突し、さらに被害車両に追突したもの

2  責任

被告は、本件事故当時加害車両を所有し、これを自己のために運行の用に供していたものであるから、自賠法三条により、右事故による原告の身体傷害について損害賠償義務を負う。

被告は、加害車両を運転中、前方不注視、速度違反の過失によつて本件事故を惹起したものであるから、民法七〇九条により、右事故による原告の物損について損害賠償義務を負う。

3  権利侵害

本件事故により、原告所有の被害車両は破損し、原告は、左大腿骨骨折、右脛骨骨折、左中手骨開放性骨折、右手伸筋腱損傷、左手異物等の傷害を負い、本件事故当日である平成元年六月二四日西大寺整形外科病院に入院したが、翌二五日早朝、脂肪塞栓症候群があらわれ、意識不明状態に陥つたため、川崎医科大学附属病院に転入院し、同日から同年九月二三日まで九二日間入院し(この間、同年六月二五日から同年七月七日まで意識不明のため救命センター集中治療室で治療、同月一四日左大腿骨骨折及び右脛骨骨折の手術、同月一九日整形外科へ転科、同年八月三一日から松葉杖歩行可能)、同年九月二四日から平成二年九月一二日まで通院し(実日数一八日)、翌一三日から同年一〇月二日まで二〇日間入院して左大腿骨骨折部の再手術を受け、翌三日から同年一一月一九日まで通院し(実日数二日)、翌二〇日から同年一二月六日まで一七日間入院して右脛骨骨折部等再手術及び形成外科手術を受け、翌七日以降実日数八日通院し、平成三年一月一二日整形外科関係で症状固定、同年一二月二四日形成外科関係で症状固定となり、少なくとも自賠責後遺障害等級一二級の後遺障害が残つた。

4  損害

<1> 物損 二〇万九二七〇円

被害車両評価額 二〇万円

保管料 九二七〇円

<2> 治療費 四二〇万八〇三〇円

<3> 入院付添費 四〇万五〇〇〇円

三回にわたる合計入院日数一二九日中、原告の母土井敏子が九〇日間付添看護した分、一日あたり四五〇〇円

<4> 入院雑費 一五万八四〇〇円

一日あたり一二〇〇円、一二九日分

<5> 通院交通費 二〇万円

通院二八日中二〇日分(原告の母土井敏子がパートを休んで自家用車で送迎)、往復一万円(なお、タクシーでは片道六〇〇〇円)

<6> 松葉杖購入費 五〇〇〇円

<7> 休業損害 四一六万五七一一円

本件事故当日の平成元年六月二四日から平成三年一〇月三一日までの勤務先岡山県貨物運送株式会社での休業損失三八〇万五七一一円に、同会社を退職した翌日である同年一一月一日から岡山交通株式会社に再就職した前日である同年一二月一六日までの約一・五カ月分として岡山県貨物運送株式会社勤務当時の推定年収二八八万円の一二分の一・五にあたる三六万円を加算した合計四一六万五七一一円

<8> 逸失利益 二三三万二九一五円

自賠責後遺障害等級一二級の後遺障害による逸失利益として、前記推定年収二八八万円に右一二級の労働能力喪失率として〇・一四を乗じ、喪失期間七年に対応する新ホフマン係数五・七八六を乗じて得た二三三万二九一五円

<9> 慰謝料 四九〇万円

入通院慰謝料 二五〇万円

後遺症慰謝料 二四〇万円

<10> 弁護士費用 一〇〇万円

5  結論

よつて、原告は、被告に対し、損害金内金一一八六万四七一六円及びその内金一〇八六万四七一六円に対する本件事故の日である平成元年六月二四日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

請求原因1、2は認める。

請求原因3のうち、本件事故により、原告は、左大腿骨骨折、右脛骨骨折、左中手骨開放性骨折、右手伸筋腱損傷、左手異物等の傷害を負い、本件事故当日である平成元年六月二四日西大寺整形外科病院に入院したが、翌二五日早朝、脂肪塞栓症候群があらわれ、意識不明状態に陥つたため、川崎医科大学附属病院に転入院し、同日から同年九月二三日まで九二日間入院し(この間、同年六月二五日から同年七月七日まで意識不明のため救命センター集中治療室で治療、同月一四日左大腿骨骨折及び右脛骨骨折の手術、同月一九日整形外科へ転科、同年八月三一日から松葉杖歩行可能)、同年九月二四日から平成二年九月一二日まで通院し(実日数一八日)、翌一三日から同年一〇月二日まで二〇日間入院して左大腿骨骨折部の再手術を受け、翌三日から同年一一月一九日まで通院し(実日数二日)、翌二〇日から同年一二月六日まで一七日間入院して右脛骨骨折部等再手術及び形成外科手術を受けたことは認めるが、その余は争う。原告主張の後遺障害については、自賠責の後遺障害認定において非該当とされている。

請求原因4のうち、<2>の治療費は認めるが、その余は争う。特に、物損については、被害車両は本件事故直前の自損事故の際ガードレールに激突しており、これによる修理代は二〇万円を越えるものと推定され、全損と評価できるから、本件事故による損害はない。

三  抗弁

1  過失相殺

本件事故について、原告には、夜間且つ降雨のため見通しの悪い車道上における自損事故による進路妨害及び自損事故後の後続車両に対する衝突回避措置義務違反等の過失があり、過失相殺が相当である。

2  損害の填補

治療費 四一九万一八七〇円

休業損害 一四七万八四〇〇円

四  抗弁に対する認否

抗弁1は争い、同2は認める。

第三証拠

本件記録中の証拠に関する目録のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  事故の発生

請求原因1は当事者間に争いがない。

二  責任

請求原因2は当事者間に争いがない。

三  権利侵害

請求原因3のうち、本件事故により、原告は、左大腿骨骨折、右脛骨骨折、左中手骨開放性骨折、右手伸筋腱損傷、左手異物等の傷害を負い、本件事故当日である平成元年六月二四日西大寺整形外科病院に入院したが、翌二五日早朝、脂肪塞栓症候群があらわれ、意識不明に陥つたため、川崎医科大学附属病院に転入院し、同日から同年九月二三日まで九二日間入院し(この間、同年六月二五日から同年七月七日まで意識不明のため救命センター集中治療室で治療、同月一四日左大腿骨骨折及び右脛骨骨折の手術、同月一九日整形外科へ転科、同年八月三一日から松葉杖歩行可能)、同年九月二四日から平成二年九月一二日まで通院し(実日数一八日)、翌一三日から同年一〇月二日まで二〇日間入院して左大腿骨骨折部の再手術を受け、翌三日から同年一一月一九日まで通院し(実日数二日)、翌二〇日から同年一二月六日まで一七日間入院して右脛骨骨折部等再手術及び形成外科手術を受けたことは、当事者間に争いがない。

甲第一三ないし第一五号証、第一八号証、原告本人尋問の結果、調査嘱託の結果並びに弁論の全趣旨によれば、原告は、本件事故による傷害の診察のため川崎医科大学附属病院に平成三年一月一二日通院し、整形外科関係で同日症状固定の診断を受け、さらに同年一二月二四日通院し、形成外科関係で症状固定の診断を受けたこと、右事故による原告の後遺障害としては、当初、左膝関節屈曲に五度程度制限があり、右脚が約一センチメートル(レ線計測上は五ミリ以下)短縮し、右膝蓋靱帯付着部に圧痛があり、左大腿部が張り、長く正座ができず、和式トイレの使用には不便があり、腰痛が出やすく、疲労しやすいなど、日常生活にいささか支障があり、重労働は困難であるほか、右側胸部、両手首、両大腿部に外傷後肥厚性瘢痕が残り、疼痛や掻痒感があるが、自覚症状については軽快の傾向にあること、しかし、自賠責の後遺障害認定では非該当と判定されたこと、以上のとおり認められる。

なお、甲第一六、第一七号証、原告本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば、原告は、平成三年七月旅行中排尿困難のため神戸市内の末光病院で強制採尿を受け、血尿及び膀胱タンポナーデの診断により一日入院し、同年八月川崎医科大学付属病院で診察を受け、肉眼的血尿との診断により治療を受けたこと、その後しばらくの間原告は疲労時に血尿の症状が現れることがあつたことが認められるが、右症状の原因については、医師の見解によつても原因不明とされていることが認められ、発症の時期が本件事故後二年経過後であることからみても、右症状と本件事故との因果関係は明らかではないといわなければならない。

乙第一ないし第五号証、原告及び被告各本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば、本件事故当日、原告所有の被害車両はその左前部を大破し、いわゆる全損扱いの状態となつたことが認められるが、他方、原告は、本件事故直前に被害車両を運転して現場付近を時速六〇キロメートルで走行中、左の脇道から現れたオートバイを避けるため、急ブレーキをかけ左にハンドルを切つたところ、被害車両は、その左前部が道路左側のガードレールに衝突し、さらに進んで進行車線を左を前に斜めに塞ぐ形で停止していたところへ、被告運転の加害車両が時速約六〇キロメートルで進行してきて、急ブレーキをかけたが、間に合わず、加害車両の右前部が被害車両の左後輪付近に衝突し、被害車両は左前に押し出されたものであることが認められるところ、加害車両が衝突した被害車両の左後輪部分の破損は単なる凹損であり、左前部の大破状況にくらべると、かなり軽度なものであることも認められ、また、原告自身警察官に対する供述において、被害車両の左前部の破損は、当初の自損事故の際のものと思う旨述べていることからすると、被害車両の左前部の大破は、当初の自損事故によるものと推認でき、すでに全損扱いの状態になつていた疑いが濃いから、被害車両の全損について本件事故との因果関係は認め難い。

四  損害

1  物損

前記三の末尾に説示したとおり、被害車両の全損について本件事故によるものとは認めがたいから、損害は認められない。

2  治療費 四二〇万八〇三〇円

請求原因4<2>は当事者間に争いがない。

3  入院付添費 二五万六五〇〇円

原告本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば、原告の入院中は、母土井敏子又は友人が付き添つたことが認められるが、前記三第一段の入院治療の状況、原告の傷害の内容や容態の程度等からすると、近親者の付き添い看護を要したのは、西大寺整形外科入院時の二日と川崎医科大学付属病院の救命センター集中治療室を出た平成元年七月八日から松葉杖歩行可能になるまでの同年八月三一日までの五五日との合計五七日間と認めるのが相当である。

近親者の付添看護料としては一日あたり四五〇〇円と認めるのが相当であるから、原告の付添看護料は四五〇〇円に日数五七を乗じた二五万六五〇〇円となる。

4  入院雑費 一五万四八〇〇円

前記三第一段の原告の入院日数の合計は一二九日となるところ、一日あたりの入院雑費は一二〇〇円と認めるのが相当であるから、原告の入院雑費は一二〇〇円に一二九を乗じた一五万四八〇〇円となる。

5  通院交通費 八万五〇〇〇円

前記三第一段、第二段のとおり、原告は川崎医科大学付属病院に平成元年九月二四日から平成三年一二月二四日まで少なくとも実日数として二二日通院したものであるところ、甲第七、第八号証の各二、第二一号証、原告本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば、平成二年一、二月頃までは実家のガラス屋の手伝いをしている母親が休業して車で原告の送迎をし、それ以降は、原告が運転可能になり、自ら車で通院したこと、平成二年二月一〇日までの通院日数は一四日であること、原告宅と病院との間の自家用車の運転によるガソリン代は一〇〇〇円程度であることが認められ、右認定事実に原告の傷害の部位程度等を勘案すると、原告の通院交通費としては、母親が送迎のため休業した期間である平成二年二月一〇日までの一四日については付添看護費用及びガソリン代に見合うものとして一日あたり五五〇〇円、その後の八日間については一日あたり一〇〇〇円で計算した合計八万五〇〇〇円と認めるのが相当である。

6  松葉杖購入費 五〇〇〇円

甲第一〇号証並びに弁論の全趣旨によれば、請求原因4<6>の事実が認められる。

7  休業損害 二八七万円

甲第一一、第一二、第一九、第二〇号証、原告本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば、原告(昭和四四年二月一四日生)は、平成元年六月八日岡山県貨物運送株式会社に就職してまもない同月二四日本件事故に遭遇し(当時二〇歳)、入通院治療のため平成二年二月まで休業を余儀なくされ、同年三月(勤務日数一〇日)から職場に復帰し、同年四月からほぼ通常の勤務に戻り給与の支給を受けていたが、同年九月(勤務日数五日)から再手術入通院治療のため再び同年末まで休業を余儀なくされ、平成三年一月(勤務日数一三日)再度職場に復帰し、同年二月からほぼ通常の勤務に戻り給与の支給を受けていたが、同年七月血尿等の治療のための通院により欠勤がちとなつて勤務に支障を生じて減収となり、原告自身重い荷物を運ぶなどの作業に苦痛を感じていたこともあつて、右会社の辞職勧告に従い、同年一〇月末右会社を辞職したこと、右会社における原告と同等の従業員が正常に勤務した場合の一ケ月あたりの平均収入は一九万円であり、年末の賞与は二〇万円であつたが、原告は本件事故治療のための欠勤により賞与の支給を受けられなかつたこと、原告は、右会社退職後の同年一一月一日から同年一二月一六日まで失業していたが、この間、普通二種免許の取得のため教習場に通い、同月一七日岡山交通株式会社にタクシー運転手として採用され、今日に至つていること、以上のとおり認められる。

右認定事実によれば、原告は、本件事故により、少なくとも平成元年六月下旬から平成二年三月下旬までの九カ月間及び同年九月上旬から平成三年一月上旬までの四カ月間の合計一三カ月間休業し、この間受けられなかつた給与額は、平均月収一九万円に右休業月数一三を乗じた二四七万円に二年分の年末賞与四〇万円を加算した二八七万円となる。

なお、平成三年七月以降の血尿等の治療のため欠勤がちとなり、減収となつたあげく、同年一〇月末岡山県貨物運送株式会社を辞職した点については、直接の原因は血尿症状にあり、右症状と本件事故との因果関係が不明であることは前記三第三段のとおりであるから、右減収及び辞職後の失業期間の無収入を本件事故に起因する損害とすることはできない。

8  逸失利益 一二三万七四二〇円

前記三第二段のとおり、原告には現時点では本件事故による後遺障害が残存している(自覚症状は軽快の傾向にある)ところ、前記四7のとおり、原告が岡山県貨物運送株式会社を辞職する間接的な要因として、重い荷物を運ぶなどの作業に苦痛を感じていた事情があり、その後の職種としてタクシー運転手を選ぶなど、原告は、当時としては、右事故による後遺障害のための稼働能力の一部に支障を来し、職種を限定する必要に迫られていた事実が認められる。

自賠責の後遺障害認定では非該当とされたことは前記三第二段末尾のとおりであるが、右は脚長差、関節屈曲制限の度合い、瘢痕の部位程度等の各種項目がいずれも査定基準を満たすまでに達していないことに起因するものと推察されるところ、原告については多様な後遺症状が複合して、前記のように労働能力に制限を来す程度に達していたものと認めるのが相当である。

その程度については、自覚症状が軽快の傾向にあることのほか、甲第二〇号証及び原告本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば、原告の岡山交通株式会社におけるタクシー運転手としての平成四年の収入は、年間一九〇万円余、月収としては一六万円程度(前記四7のとおり、岡山県貨物運送株式会社勤務当時は一九万円)であることが認められることに加えて、本件事故が生身の人体と車両との衝突事故であり、原告の傷害が意識障害すら伴つた重篤なものであつたことなども合わせ勘案すると、原告の労働能力喪失は、期間としては四年程度、率としては労働基準監督局長通牒昭和三二年七月二日基発第五五一号の後遺障害等級一二級の一四パーセント程度と認めるのが相当である。

従つて、原告の後遺障害による逸失利益は、本件事故当時の原告の推定平均年収二四八万円(月収一九万円の一二カ月分に年末賞与二〇万円を加算したもの)に、労働能力喪失率として〇・一四を乗じ、これに労働能力喪失期間四年に対応する新ホフマン係数三・五六四を乗じた一二三万七四二〇円となる。

9  慰謝料 二七〇万円

前記三第一、第二段の入通院状況からすると、その慰謝料は一五〇万円と認めるのが相当である。

前記三第二段、前記四8の後遺障害の内容程度、仕事への影響等を総合考慮すると、その慰謝料は一二〇万円と認めるのが相当である。

10  合計 一一五一万六七五〇円

五  過失相殺

乙第一ないし第五号証、原告及び被告各本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

本件事故現場は、南北に通ずるセンターラインの設けられた二車線の県道であり、最高速度四〇キロメートル毎時の規制がなされていた。

原告は、本件事故当時、深夜降雨の中、前照灯を点灯して時速約六〇キロメートルで被害車両を運転し、県道を北進走行していた際、事故現場手前の左脇道から被害車両の前方に急にオートバイが飛び出してきたのを発見して、急ブレーキをかけるとともにハンドルを左に転把したところ、被害車両は県道左側のガードレールに衝突し、さらに進んで、その左前部を大破していわゆるエンスト状態で、進行車線を左を前に斜めに塞ぐ形で停止した。

原告は、シートベルトをしていたことから、格別身体に傷害はなく、直ちに車外に出て、ちょうどやつてきた対向車に合図をして、自車を路外に出すべく協力を要請しようとしたところ、後続車である加害車両がやつてくるのをライトで知り、その進路を塞いでいるので、同車に合図するのが先であるとして、停止している被害車両の南側の北行車線のほぼ中央に立ち、手を振つて加害車両に停止を求めたが、同車は減速することなく原告に接近してきたため、危険を感じて左(東)側に跳躍して逃れようとしたが<右(西)側にはガードレールがあるため>、まにあわず、同車に北方に跳ね飛ばされて、被害車両を越え、約一〇メートル北の県道上に叩きつけられた。

被告は、加害車両を運転し、県道を前照灯を点灯して時速約六〇キロメートルで北進走行し、本件事故現場手前にさしかかつた際、対向車が路端寄りにゆつくり走行してくるのを見て、前照灯を下げた、不審に思つてそちらに気を取られたまま走行していたところ、突然進路前方約一〇メートルの道路中央部分でこちら向きに両手をあげて振つている原告を発見し、咄嗟に急ブレーキをいつぱいに踏むとともに、右(東)にハンドルを切つた<左(西)側にはガードレールがあり、左にハンドルを切ると衝突すると思つた>ところ、原告も同じ方向に跳躍し、これを跳ね飛ばし、つづいて停止していた被害車両の左後部に追突した。

以上のとおり認められる。

右認定事実によれば、本件事故については、被告の前方不注視、速度違反の過失があることは認められるが、他方、原告としても、現場は原告のいわゆる自損事故により被害車両で道路を塞いだ状態にあり、深夜で降雨の中見通しがかなり悪いのであるから、後続車に対して合図するにしても、自らはある程度回避しやすい道路脇近くに位置するなどして、事故の発生を未然に防止すべき注意義務があつたのに、これを怠り、漫然と道路中央に立つていた過失があるものというべきであり、事故状況や現場状況等に照らすと、過失相殺における損害負担の割合は、被告八分、原告二分と認めるのが相当である。

従つて、被告の負担すべき損害額は、前記四10の一一五一万六七五〇円の八割にあたる九二一万三四〇〇円となる。

六  損害の填補 五六七万〇二七〇円

抗弁2は当事者間に争いがない。

七  弁護士費用 四〇万円

本件事案の内容、審理の経過、認容額等を総合考慮すると、弁護士費用としては四〇万円と認めるのが相当である。

八  結論

以上によれば、原告の本訴請求は、被告に対し、負担すべき損害金九二一万三四〇〇円から填補額合計五六七万〇二七〇円を控除した三五四万三一三〇円に弁護士費用四〇万円を加算した三九四万三一三〇円及び弁護士費用を除く内金三五四万万三一三〇円に対する本件事故の日である平成元年六月二四日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるか認容し、その余は理由がないから棄却し、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条、九二条を、仮執行宣言について同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 矢延正平)

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